雨の匂い





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テスト期間中とその前から、暫く誠と触れ合っていなかった。

今年は受験生で、内部枠で推薦貰って二人ともそのまま上の学校に上がるつもりでいたから、そんな時は真面目に勉強しようと提案されていた。
だって、キスしてじゃれ合って愛撫しだすと時間が許す限りしてしまうからさ、俺が。

雨に濡れた服を剥ぎ取り、剥ぎ取り合い、タオルで髪の雫を拭いながら口付けをする。
二階の誠の部屋、張り出しのサンルームは曇って雨のスクリーン。
ラグに体を横たえて、丁寧な口付けをし合った。
味わうように舌を絡めてゆっくり、蕩けるようにするのが誠の好み。
時折漏れる熱い小さな吐息を落ちた舌ごと吸い上げて、漏らさず飲み込むのは俺の好み、体の芯に甘い疼きが落ちるから。
そしてひどく抱きしめたくなる。丸みも沈み込みもしないその体を。

愛しい、と思う。

キスで息が上がりしどけなく横たわる誠の、全てが露になった肌は朝日が溶け込んだような色だといつも思う。この肌に俺は欲情する。
頬から首筋、胸元を指先と唇で優しく触れていきながら、吸い上げて全てに自分の跡を付けたい、そんな衝動に本当はいつも駆られる。
でも、出来ないけど。

優しくしたい、怖がらせたくない、傷をつけたくない。
大事にしたい。

太ももの内側、腰の付け根、背筋。滑らかに浮き出た筋肉にそって舌を這わせ、首筋から耳の中に柔らかく舌を落とし込んで行くと、誠はうっとりと長い吐息を吐き出した。
こんな風に汲まなく体に愛撫を施して、俺なりに愛してるよと伝えて行く緩やかな行為に時間をかけたい。
指先から舌先から伝わって欲しいと思う、この気持ちが皮膚を通して誠の深いところに。だけど、伝えても伝えても、伝え切れていないと思うのはどうして。
もどかしいそんな気持ちを自分の内側を愛撫するみたいに飲み込んで、抱いて。
そんな風に俺は他の誰かを抱いた事があったかな。

薄く色づく乳首を、脈打つ心臓の辺りに頬を寄せ舐め上げる。
下に這わせた指を絡ませながら誠の鼓動が早まって行くのを感じる。
唇で腹筋の谷間を辿り、舌を這わせ勃ち上がった先を口に含んで丁寧に扱いて行くと、誠が感じている証が口の中で広がる。髪に通された指がもどかしそうに蠢いたので、奥の窄みにも指を宛てて少しだけ揉み解した。
最初は恥ずかしがってそんな事をさせてもくれなかったけれど、最近は素直に体を預けてくれるようになって、快感に目を細め震える声も聞かせてくれる。少し掠れた吐息混じりの甘い声、かわいい誠。
そうやって体の引き出しを開けて行って、その全てにキスを終えたら、二人でペニスを握り合って耳を甘噛みしたり口付けしたしながら一緒に高みに駆け上がる。
それが俺達のセックス。
挿入はしない。
だって、スムーズじゃない事を誠にさせるのは酷だろう?
穏やかではあるけれど、俺はそれだけでも、もう胸がいっぱいなんだ。体に、表情に、与えた感覚が素直に見てとれるだけで、もういっぱい。
誠が気持ち良かったら、それでいい。
だって、少しずつ、やっと受け入れて貰ったんだから。

女の子を抱いてた時の抑えが効かないあの強烈な排泄欲は一体どこに行ったんだろう、時々そう思うけど、今誠としてる事の方が気持ちの満足度では全然上。
他の誰にもこんな気持ちは持ち得ない、ましてや他の男なんて。有り得ない。
だから、やっぱり誠は特別なんだと俺は思う。
 
 「…っ…」

達した後、誠が小さく息を吐いた。
抱き合ったまま、くたりと肩に凭れかかって暫く余韻に浸る、こいつの全てがこの腕の中にあると思う幸福な時間。
いつもなら、その後少し体をきれいにして肌の感触をもう少し楽しんで、眠ったり、時間があればまたゆっくりとセックスをしたり。
乾くと面倒になりそうな精液の濡れた感触があったから、飛び散ってしまったところを拭おうと体を離して床に転がったティッシュへ手を伸ばした。
その腕を誠が緩く掴んだ。

 「どうかしたか」

見上げてくる洗い上げたグラスのような目。

 「彰広」

 「ん?」 

 「しよう、もっと」

 「うん。でもちょっとほら、ココきれいにしてからな」

しような、もっと。
催促なんて珍しいから、嬉しい。

黙ってされるままの誠の胸と腹の濡らしてしまった所を優しく拭きとった。
手の平で感じるじんわりと温かくなった体。緊張が解れて弛緩しているのが分る。
いいオーガズム、感じてくれたのかな。それなら、さっきよりももっと。
拭き終わって再びキスをしようと屈み込むと、また誠が口を開いた。

 「彰広」

 「ん?」

 「もっとさ。して、いいんだよ」

 始めから、誠が素直に求めてくるのも珍しかったんだ。今日みたいに。

 「うん、しような、もっと。で、もっと気持ちよくなろう ?」

 「ん…あ、待って、あのさ」

舌先でつつくように誠の口の端を舐め始めた俺を制して、誠は俺の手を取ると自分の腹の下辺りに置いた。
 
 「あのさ、聞いて。…ココ。ココの、体の中がさ」

なんか変な感じがして、どうしようもなく疼くんだ。少し前からセックスしてると、今も。
そう誠が言った。 

 「ココって、この、中…?」

 「うん。あのさ…聞いていいか?彰広はさ、どうして」

どうして僕とアナルセックスしないの。と誠が聞いた。
 
 「どうしてって…だって、スムーズじゃないだろ」

だってそこは濡れたりしない。
そして男は感じて濡れるんじゃなくて、出したくなるものだから。

 「俺、マコを女と思ってる訳じゃないからさ」

いや、 
 
 「女と同じにすればいいとも思ってなかったし。そんな事しなくても、一緒に達けるし、こういう時は、二人とも気持ち良ければ別にいいだろうって…」

だってキスとか、優しいのが好きだろ ?

そりゃあ、突っ込むって行為をしたくなかったかと聞かれれば嘘になる。俺はおまえに欲情するし、すればそれが男側からしたら一番気持ちいい事だって知ってるから。
だけど女じゃない男の誠に、本気でただ抱き締めた時でさえ震えてショックを受けた誠に、俺がそんな事まで要求するっていうのは出来ない事だと思っていた。
大事にしたい傷付けたくない、もう、その気持ちだけでいっぱいで。

 「そんな言葉がおまえから出るとは思ってなかった。俺、コレはコレで、出来るなりのちゃんとしたセックスしてるつもりでいたよ。…満足、してなかった?」

ショック。それでため息。
それを塞ぐように誠の指が俺の唇に触れた。 
 
 「彰広の仕方は大好きだよ。凄く気持ちいい。愛し合ってるって感じがすごくする。たださ・・・」

 ゆるゆると宥めるように動かしながら、指と言葉が逡巡してる。

 「もっと欲しいって思った。僕だって彰広に女みたいに抱いて欲しかった訳じゃない。でも、自分でだって不思議だけど…お前のがさ」

ここにさ、欲しくなった。
見上げる洗い上げたグラスのような濡れた目。

 「男なのに挿れて欲しいなんて思うようになるなんてな。…おまえに抱かれ過ぎて、体おかしくなっちゃったのかな」
 
ここには、何もないのにね…。
出来なければ、いい。

そう言った。

なんて事を言うんだよ、誠。
そんな、笑って言ってるけどそんな目をして、今ほんとは泣きそうだろ。
  
 「ごめんな」

そんな事言わせて。目元にそっとキスをした。

 「しちゃいけないんだと思ってたんだ。おまえには臆病になる。でも、そんな事言って貰ったら、俺」

どうなるか分らないよ。
痛いだろうし、苦しいのかも知れない。
それでももっと、俺と一つになりたい ?
 
 「後悔、しないか? 」

 「うん」

後悔するとかどうでもいいよ。もっと僕の中で、もっと近くで知りたいんだ、彰広を。
そう誠が言った。

俺の内でストッパーが外れる音がした。

タブーならとっくに犯していた。
もっと近くで知りたい、そうお前が望んでくれるなら。
抱いてやるよ、誠。それで融け合おうな。


もっと、
もっと深いところまで。



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